今年度も、語の意味が反対だと見なされるのはどのような場合か、という点に関して考察を行った。関連する心理学的な研究、およびコーパス言語学における研究を総合的に考察し、今後の指針となる仮説に達した。すなわち、意味が反対と見なされるかは単一の要因によって決まるものではなく、談話的な要因と、語義的な要因の両方が関わり、その両方によって反対であると見なされる場合が典型的な反義語である、という仮説である。具体的には、1)談話的に選択肢と見なされる、2)語義的に、a)反対の方向性が関わっていると見なされる、b)対照的な特性を持っていると見なされる、というものである。このことがさらに実証されれば、かつての構造意味論が考えていたように、反義性が意味素性場の対立によるのではない(そうとは限らない)ことがはっきりすると考えられる。 また、関連する現象として、部分全体関係という語義関係をどのように認知言語学的に考えるべきかについても考察を行った。その結果、部分全体関係が語と語の関係ではなく、語のフレーム内における指示物の関係であることが明らかになった。 また、反義語における意味の差についても考察を行った。その結果、反義語と見なされる語に関しても、実際には対立する意味要素以外の点においても多くの意味的な相違が認められる場合が多いこと、また、メタファー的な意味拡張においても違いがあり、反義語が同じ意味拡張によって派生的意味を生じるとは限らないことが明らかになった。
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