本年度は当研究課題の初年度であったが、(1)文化を所有するとはどういうことか、(2)どのような状況(歴史)において、文化の所有が主張されているのか、(3)そのような主張を正当化する法は、文化の発展にどのような影響を与えるのか、という三つの論点に絞り、調査をおこなった。具体的には、哲学、社会学、歴史、文化人類学、美術史などの文献から、(1)〜(3)の問題系を明らかにした。 その後、まず(1)を「文化の著作権化」というテーマとして捉えなおし、音楽生産をめぐる法的には、きわめて不透明な領域として、「ロック・ブートレグ」について調査した。世界的にみても、いまでは東京がその主な生産地である。この調査で判明したのは、法が文化の生産を阻害しかねないということである。著作権は、文化よりも経済に左右されている。 だが、「文化の正当な所有者」が存在するという考えは、しばしば音楽以外の領域では、繰りかえし主張されることである、たとえば、ミュージアムでの展示物は、その作品の作者が判明しない場合ですら、ある集団にそれを返却したりすることは、まれではない。戦時中に採集された物品などは、返還されることが当然とされている。 自己表象する機会すら剥奪されていた被植民地者が、独立解放後は文化の占有を主張し、二度と植民者には表象を許さないという歴史もある。今回は、ハワイにおける白人壁画作家〜ジャン・シャロー(Jean Charlot)やジュリエット・フレイザー(Juliette May Frazer)など〜による公共的アートの展開と評価とを実地調査から明らかにした。
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