本研究は、海外在住日本人母子のお産文化(腹帯・安産祈願・里帰り分娩等)の継承や子育ての状況を明らかにし、海外の母子保健サービスの質の向上に資することを目的としている。 キリスト教文化圏である英国と儒教・仏教文化圏である中国で暮らす日本人母親を対象に半構造化面接と参加観察を実施した。 英国では、日本食・日本のメディア(雑誌・本)が手に入り、日本人コミュニティーも形成されていた。お産文化の伝承も服帯やお守りが日本から送られてきており、臍の緒も保存している母親がいた。第2子を英国で出産した母親は、分娩時のケアが「うすい」と感じており、日本のケアの特徴である「mothering」を欲求していることが明らかになった。反面、英国のお産・子育て文化は合理的で多様性を認めるので「好き」という感情もあった。 中国では、反日感情が強い社会状況の中で、大規模な日本人専用の公寓と呼ばれる集合住宅があり、敷地内には日本人向けの幼稚園やクリニック、スーパーマーケットがあり小日本人社会を形成していた。飛行機で3時間程度で帰国できるので、外国に住んでいるという実感はないという。お産文化に関しては、アイさんと呼ばれる中高年の中国人女性のお手伝いさんを雇うのが「普通」になっており、各家庭で中国のお産・子育て文化との遭遇があった。アイさんは子どもを甘やかすので困るという思いと、アイさんに家事・育児を手伝ってもらっているので子育てにゆとりが持てるという思いがあった。産後は脂肪が浮いたチキンスープを飲まなければいけない、早期離床してはいけないとか、細かいことを言ってくるのがうっとうしいが、アイさんには家族のような愛情を感じていた。 英国・中国在住の日本人母親とも、日本と在留国の文化の良いところを選択しながら日本のお産文化を継承していることが明らかになった。今年度のフィールドワークの結果は、平成18年度に米国のTranscultural Nursing Societyで発表予定である。
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