今年度は、コンピュータ・ソフトウェア産業における競争政策の課題を、(1)抱き合わせ、(2)接続清報の提供拒絶、(3)NAP条項に絞って検討し、その規制のあり方を検討した。 コンピュータ・ソフトウェアの市場は多層構造をなしており、そのいくつかの市場が独占的になっている。その原因はネットワーク効果による。ネットワーク効果は、事業者の競争戦略に影響を与え、その帰結は、協力による規格標準の形成か、競争による事実上の標準の奪取か、という形をとる。協力による場合は、価格カルテル等や競争者の排除行為などの逸脱行為、規格標準の基礎として不可欠となった特許技術群に対する事後的な権利主張などが問題になる。競争による場合は、事実上の規格標準を奪取するための手段を選ばない不正な競争が問題となり、事実上の規格標準が成立した後では、標準となった基本ソフト(「OS」)に応用ソフト(「AP」)を抱き合わせて能率競争を排除する類の行為や、OSにAPを接続するための技術情報の非開示ないし不十分な開示、取引相手からの特許侵害訴訟を回避するNAP条項が問題となる。事実上の規格標準が成立した後、OSへのAPの抱き合わせ行為、接続情報の提供拒絶、NAP条項などの競争制限は、市場の多層性により、競争への影響も多面的に及ぶことになる。しかし、いずれの行為も、相応に合理的な背景や事情があり、単純に違法行為と決めつけて規制することはできないとして、慎重な規制を提言した。また、それを規制する必要がある場合には、欧州型の独占規制(市場支配的な地位の濫用規制主義)と米国型(原則禁止主義あるいは市場支配力の形成・維持・強化をもたらす抑圧行為の禁止)とでは、いずれが如何なる面で有効性をもっているかということも検討し、日本では、現在の米国型に加えて、欧州型の規制の補完的な導入の必要性を明らかにした。
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