最終年度の研究課題は、音楽CD還流防止措置導入と競争政策と定めて、著作権法改正の経緯を検証するものとした。日本の若者に支持された音楽(Jポップ)が東アジアでも受け入れられたところから、日本のレコード会社は、その海賊版が東アジアで横行することをおそれ、現地でのプレスをライセンスし、日本市場より廉価な価格設定を許した。ところが、安価の価格設定のために、現地ライセンスの音楽CDが日本市場に環琉し、日本のCD市場の価格の脅威になりはじめた。レコード制作者とレコード協会は、廉価な音楽CDが日本市場に環流しないように、何らかの法的な措置がとれる著作権法改正を求めた。相応の議論の結果、平成16年の通常国会で、この議論は著作権法の一部改正に結実した。 この問題の研究は、この改正の過程で、どのような利益をどのように考慮すべく、いかなる議論が展開されたのか、それらにふまえて、どのような立法技術が駆使され、侵害の見なし規定の新設(著作権法113条5項)に結実したのか、を明らかにするものである。また、その後、CD市場に何らかの注目すべき変化がもたらされているかどうかも可能な限りで明らかにした。それによって本研究は、音楽CD還流防止措置導入のための著作権法改正劇の一幕を、競争政策の観点から、改めて評価することを可能にしたと考えている。すなわち、競争政策の観点からも、音楽CD還流防止措置導入の必要性は認められるが、法案を策定する過程のおける議論のより一層の公開や消費者の参加が必要である、と。この研究成果を報告する機会が与えられた。11月に、国際経済法学会の午前の部の共通論題「知的財産権保護を巡る諸問題」の第3報告「音楽CD還流防止措置導入と競争政策との調整」として報告した。
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