研究課題
最終年度である今年度は、研究をまとめるための理論化に力を注いだ。1)本研究の基本的問題意識である「被侵害利益の主観化」は、予想よりも拡がりを持っている。この知見は、昨年度も報告したところであるが、そこで報告したパワーハラスメントやPTSD、むち打ちなどの損害賠償法上の難問とされてきた問題に止まらず、民法以外の法領域でも同様の問題が見出されることがこの間分かってきた。たとえば、刑事法の領域での修復的司法への動向である。そして、このような状況は、社会学の領域でも注目され、<心理学化される現実>というように呼ばれていることも分かってきた。このような知見の獲得は、何が現代においてこのような問題を広汎に出現させているのかという新たな問いを提起することになる。2)問題がこのような広汎な拡がりを持っていることは、問題への対処についても、損害賠償という限られた手法で考えることの限界を浮き彫りにした。本研究のテーマであるセクシュアル・ハラスメントの被害者にしても、損害賠償の獲得が自己目的なのではなく、加害者に対する制裁が適切に行われること、そのような行為の停止と再発防止こそが関心事である。それをどのような法的手法で行うことができるか。これが新たな問題として提示される。そして、問題をこのように把握すると、「被侵害利益の主観化」と「被侵害利益の公共化」の相互移行関係という昨年度報告した理論的知見の正当性が改めて確認されることになる。このように、不法行為に基づく損害賠償についての理論的パラダイム転換を展望して開始された本研究は、不法行為を突き抜けてより広汎な理論問題に直面することになった。いまだ具体的な論文には結実していないが、この成果は、近い将来公表できるはずである。
すべて 2007 2006
すべて 雑誌論文 (7件)
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