割れ窓理論によると、町のわすかな「秩序の乱れ(例えは、落書きや放置された建物なと)」が地域住民の不安・無力感を喚起し、地域に対する働きかけが減少することで、より重大な犯罪を引き起こすとされる。本研究は、静岡県のある2地域において、割れ窓理論に基づく介入(清掃およびパトロール活動)を各地域4ヶ月弱ずつ時期をずらして実施し、その効果を比較した日本で初めての分析である。 研究最終年度の本年度は、これまでの研究で得たデータの分析を行った。主な分析内容と結果は以下の通りである。 1.各地域への介入の効果をオッズ比により検討した。分析結果から、(1)全刑法犯に対しては介入の効果は無いかあるいは逆効果がありえる、(2)屋内刑法犯に対しては介入の効果がありえる、(3)屋外刑法犯に対しては介入の効果が無いかあるいは逆効果がありえることが明らかになった。ただし、この分析は、統計的有意性検定ではない。 2.次に、犯罪件数の増減が、介入の有無によるものかどうかとの有意性検定を行うため、ログリニア分析を行った。複数のモデルを分析したが、いずれの分析においても、地域のもともとの犯罪発生水準あるいは時期的な変動による有意な影響しか認められず、介入の有無による有意差は認められなかった。 現段階での分析結果から、割れ窓理論に基づく介入(ゴミ拾いや落書き消しなど)は犯罪を有意に減少させるには至らないという知見が得られた。つまり、直接的な犯罪抑止効果は無かった。今後は、間接的な効果に焦点を当ててさらに分析を進めることが課題となる。
|