1994年の国連社会開発サミット以降、発展途上国への経済成長中心の開発戦略の再検討がなされ、「人間を中心に置く」開発概念・手法である社会開発は、経済開発と並ぶ重要な開発課題であると認識されている。具体的には貧困対策、住民参加、女性支援、NGOとODAの連携などがあげられる。今後これらの分野において「住民参加」や「エンパワーメント」の諸概念に関する実践方法の分析・研究が急務とされている。近年では新たな開発パラダイムのもと援助戦略が次々に打ち出されており、その状況を踏まえて、社会開発と社会福祉・ソーシャルワークとの共有点を再検討し、フレームワークを構築する試みは社会開発の課題解決へ向けて貢献する点から大きな意義がある。 本研究の目的は、1)社会開発と社会福祉の概念・理念の理論的発展、特徴及び相違点を明らかにする、2)社会福祉・ソーシャルワークが社会開発プログラム実践に果たす役割(理論及び援助技術方法)に関して考察する、3)社会開発分野への人材育成の課題を提示することである。 2005年度(初年度)は、本研究領域に関する先行研究及び基礎研究文献(開発及び社会開発、開発分野における社会福祉・社会サービスの役割)の資料収集し、その検討・考察を行っている。2005年7月には、ブラジルで開催された国際社会開発コンソーシアム国際会議に参加し、日本における高齢者ケアの課題とエンパワーメント実践に関する発表及びセッションの座長を務めた。会議期間中に発表者・参加者と研究課題に関する意見交換も行った。また、2006年1月にバングラデシュのダッカ大学社会保障・社会福祉研究所所長の協力を得て、途上国におけるソーシャルワークの機能・役割について関連研究者及びBRAC(バングラデシュ農村向上委員会)実務者への聞き取り調査、及びフィールド調査を実施した。同年3月には、社会福祉分野のエンパワーメント理論・実践研究の第一人者であるDr.Enid O.Cox(デンバー大学社会福祉大学院教授・老年学研究所所長)を招へいする機会を得ることが出来たため、ソーシャルワーク(特にコミュニティワーク援助技術)の専門的知識・技術及びエンパワーメント実践と社会開発への役割などについて検討・協議を行った。
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