アイヌ女性の複合差別の実態について、札幌市内に住むアイヌ女性10名を対象に面接調査を1人当り、1時間程度行った。質問内容としては、複合差別の体験について、出生時点から現時点に至るまで、家庭、学校、職場、地域社会において体験した差別を回想してもらった。面接記録は、テープに録音し、後に文書化した。被面接者の多くは、子ども時代のとりわけ、小学校や中学校時代において、身体面の特徴である毛深さにより、差別された経験を多く持ち、なかには教師から直接的に、言語による差別を経験した例もあり、教育現場における差別の実態が浮き彫りとなった。こうした、クラスメートはじめ担任教師による被差別体験は、心に深い傷を残し、アイヌ民族としての誇りを持つことの妨げともなり、アイヌ民族であることが故の劣等感を植え付けることにつながったように思える。こうしたアイヌ民族としての自己評価の低さや劣等感は、大人へと成長するに従って、アイヌ民族であることを隠しつつ、アイヌ民族集団から離れる契機となった例もあった。女性であるが故の差別とともに、アイヌ民族であることも二重の差別を生んでいる実態が見られた。政治・社会的にかつ歴史的にアイヌ民族が和人による支配を受けた過去の経緯が、アイヌ女性の差別を促進する要因となっていることも否めない。被面接者の多くは配偶者選択の時に、アイヌ男性との結婚を避け、和人男性を選択したことも、アイヌ民族としての血を薄めることで、子孫が同様な被差別体験を味わうことを防止するねらいもあったといわれる。しかし反面、アイヌ民族としての誇りと伝統に目覚め、アイヌ民族の文化を継承し、アイヌ民族の同胞組織である北海道ウタリ協会に所属することで、他のアイヌ女性から精神的なサポートを受け、アイヌ女性としての生き方を見直す契機となった例も報告され、アイヌ女性間のソーシャルサポートの重要性が認識できた。
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