本年度は(1)先行研究の探索的レビュー、(2)子ども・知的障害者の供述場面の探索的検討、(3)成果発表および研究計画への助言聴取をおこなった。 (1)については共同注意研究、生態心理学における想起研究、自伝的記憶の発達過程に関する研究、共同想起に関する研究を中心としたレビューを行い、子ども・知的障害者の供述を不在の対象に向けた共同注意の構築過程としてとらえるための理論的基盤を整備した。この作業の成果を学術誌「心理学評論」48巻3号所収論文「供述の信用性評価における言語分析的アプローチの展開」、および西井・田辺(編)「社会空間の人類学」(世界思想社)第2章「『記憶空間』試論」として発表した。(2)については知的障害者が被疑者・被告人となり長時間の取り調べをうけた事例の録音テープの分析をおこない、過去の出来事への共同注意の構築の困難が存在しながらも、供述コミュニケーションの他の側面がこれを隠蔽し、発見が極めて困難になるケースがあることを確認した。また供述コミュニケーションに生じた齟齬を解消するために知的障害者が用いる方略が、過去の出来事への共同注意の構築困難の指標となることが明らかになり、この指標を用いた分析方法の基本的な手続きを確定することができた。 以上の研究成果の一部は平成17年9月にスペイン・セビリアで開催されたInternational Society for Cultural and Activity Researchの第1回大会、および平成18年3月に福岡で開催された日本発達心理学会第17回大会で報告でも報告しており、その際、関連領域の研究者から助言聴取をした。
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