本年度は(1)「過去の出来事への共同注意」研究のための実証研究パラダイムの開発、(2)「過去の出来事への共同注意」研究のための理論的枠組の提案、(3)研究成果の発表および発表の準備を行った。 (1)については平成17年度に分析を行った知的障害者が被疑者となった刑事事件における取り調べ場面を記録した録音テープをさらに詳細に分析し、実際の会話場面における「過去の出来事への共同注意」の形成および形成の失敗を、取調官と被疑者の会話が紛糾した場面にみられる会話修復過程に注目することによって析出する具体的な分析方法を定式化した。 (2)については(1)の研究成果に基づき「過去の出来事への共同注意」のプロセスを組み込んだ供述コミュニケーションモデルの試案を作成した。具体的には昨年度の研究によって得られた供述の重層モデルをさらに精緻化し、供述コミュニケーションを「過去の出来事への共同注意の形成」「共同想起の達成」「インタビュー型コミュニケーションの構築」「説得-承認型コミュニケーションの構築」の4層に区分し、それらの相互関係を考慮したモデルを提案した。またここで得られたモデルを手がかりとして、特に刑事裁判における知的障害者を対象とした対尋問の方法に関する考察を行った。 (3)として以上の研究成果の一部(知的障害者への反対尋問に関する成果)を「現代思想」(2007年5月号)に発表した。また本研究の成果の一部を含んだ一般向け啓蒙書として「証言の心理学」(中公新書)を出版した。本年度の研究成果全体については2007年7月3〜8日にオーストラリア・アデレードで開催予定の第3回国際心理と法会議(3rd International Congress of Psychology and Law)で報告する予定である。
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