研究課題
本研究では、小児医療現場における集団変容の要因とそのプロセスについて、参与観察とアクションリサーチを中心にデータ収集・分析を行っている。今年度は、大きく二つの分野について研究を行った。一つめは、慢性疾患の子ども達やその家族と、子ども達に関わる医療者・病院職員・ボランティア・芸術家などで構成される、いわゆる「病院という名のコミュニティ」を対象にした研究である。具体的には、従前より当院小児病棟中心に行われてきた療養環境改善事業「療養環境プロジェクト」の推進と事業評価を継続して行い、その成果を第21回小児がん学会で発表した。発表では、総合病院における小児医療の充実は小児医療関係者だけでは達成することが不可能で、病院全体の組織的な関わりの中において病院の機能評価と共にあるべきであることを主張し、実践の成果と共に提示した。一方で、第7回医療マネージメント学会では、現行の保健医療体制の枠組みでは十分なサービス向上に繋がらない点を指摘し、市民や芸術家との協力体制を実現しようとする「Hospartner Net」という任意団体の取り組みを共同演者として発表した。病院外部のNPO等との役割分担によって、小児医療現場のみならず病院全体の機能充実の可能性を示唆した。特に、病院というコミュニティ(共同体)における芸術活動が、慢性疾患患児らと家族の心的回復に寄与する可能性や、関わる医療者および病院職員の達成感・やりがい感に繋がる点、一般市民の小児医療に対する関心を喚起する点について、集合的記憶の理論を適用して考察した(論文、印刷中)。二つめの研究分野としては、医療者の組織・集団と医療業務に焦点をあてた。「協働的実践」をキーワードに、セクショナリズムが強く硬直した組織に陥りやすい医療現場において、看護師・医師が協働して業務改善活動を積み重ねるアクションリサーチを行った。参与観察や半構造化面接、アンケート調査の結果から、協働論に基づいた業務改善活動が医療者の達成感やさらなる創意工夫に結びついていく可能性が示唆された(第53回日本グループ・ダイナミックス学会にて発表予定)。
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Progress in Asian Social Psychology in press