研究概要 |
18年度の調査実施状況と主な知見は以下の通り。 (1)教育,医療,福祉の各分野大学生を主な対象に,本プロジェクトの端緒である橋本(2003,感情心)によるつらい状況での泣きと,それによる心理的変化に関する尺度を再検討した。結果,(1)泣きによる主観的な心理的変化を規定する要因として,泣きの感情的・対人的状況,パーソナリティ,性別,泣きの経験などが見出された。(2)泣きの経験における喚起・表出は,自己の直接的苦痛や感動等による泣き,他者の感情への代理的泣き等の状況差に応じて抑制度が異なり,性差も変動する。また,共感性やストレス対処との関連も示された。(3)感情喚起状況によって,ひとりで泣くか人前で泣くかの対人的表出制御が分かれ,それが泣きによる内省・内的情動調整に影響することなどが見出された。上記(1)(2)(3)は,日教心,日心,及び国際行動発達学会(メルボルン)にて発表され(Hashimoto, Sawada,& Matsuo, 2006),愛媛大学教育学部紀要,愛媛県立医技大紀要に公刊された。(4)上記で用いた直接的・代理的泣きを測定する尺度の独自な評定法の妥当性についても検討し,その有効性を検証した。(5)また,つらい状況だけでなく,感動経験と泣きの関係に関する予備的研究を開始した((4),(5)とも日心2007で発表予定)。 (2)青年期での検討結果を踏まえ,成人期における泣きの経験尺度と関連する要因を検討するために,以下の調査を行った。(1)教員,養護学校教員などケア関連の仕事をしている30から40代)及び主婦などを対象に,ライフヒストリーに関するインタビューを行い,仕事や家庭生活(夫婦関係・子育て場面)での辛かった出来事や感動た出来事による泣きの経験について資料を収集した。(2)子育てをしながら働く女性を対象に,主として仕事上での泣いた経験,仕事を通じた喜びや辛さ,子育てが仕事に及ぼす影響について自由記述によるエピソードの収集を行った。 (3)収集した自由記述調査での回答や先行研究を参考に,女性看護師約640名を対象に,成人期版の直接的泣きの経験尺度および泣いた結果としての自己意識の変化について,短期的な意識の変化と長期的な人格的変化の要素を含めた尺度を作成して実施した。
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