完治困難な病を癒す術として、心理・社会的医療モデルによる健康心理学的介入法、臨床心理学的アプローチへの期待が高まっている。中でも、ストレスマネジメント介入法への関心の高まりは顕著である。これは、ラザラスのモデルに従った心理教育と、ストレス反応を抑えるためのリラクセーション技法の指導、逆にストレス反応を運動などによって解消させるアクティベーション技法の指導から構成される。また、香りや楽音による環境操作、振動やマッサージなど身体への直接刺激を併用した生理心理的アプローチも臨床現場ではしばしば有用とされている。こうしたストレスマネジメント介入による身体症状改善効果や、不安やうつ気分軽減など心理的効果について、科学的評価が期待され、試みられているもののその多くが被験者の主観的評価尺度によるものであったり、専門家による問診によるものにとどまっている。臨床現場での実施が容易で、かつ妥当性と信頼性に富む科学的指標の登場が期待されている。そこで本研究では、生理心理学的指標ならびに免疫・内分泌系指標をこうした評価指標として確立することを目的として実験的にいくつかの指標の有用性・妥当性を検討することにした。 まず、リラクセーション指標として、脳波のα波およびθ波成分、および瞬目活動と心拍率変化に焦点をあてた実験研究を行った。リラクセーション導入法としては、腹式呼吸法と漸進的筋弛緩法を用いた。すなわち、女性の声による導入用スキットにより、額、目、口、肩、腕、掌、腹、足の順に緊張-弛緩を順次体験させつつ、くつろげる場所をイメージするというもので、約5分に編集したデジタル音声刺激を用い、この間の脳波α、θの周波数成分の時間経過にともなう変動を分析した。その結果、筋弛緩=リラックス時にこれらの脳波成分が増加することを確認した。さらに音声スキットに、G線上のアリアならびに1/fゆらぎの川のせせらぎ音などを重畳提示した条件との比較を行った。現時点では、音楽や自然音の重畳は、リラックス効果を妨害する効果が得られている。 また、唾液中コルチゾールおよびs-IgAを用い、各週ストレス事態での測定に加えて、運動負荷によるアクティベーション効果を検討した。まず大学生や高齢者を被験者としたいくつかの実験によって、スピーチや暗算などのストレス負荷によって、両測度が一過性に増加することを確認した。次に、15分間の歩行によってコルチゾール値が減少し、s-IgAが増加することを男子大学生グループで確認し、アクティベーション効果の客観的指標とみなすことが可能であると期待するにいたった。女子大学生および高齢者グループでは両指標とも増加した事例が多く、適切な運動量(歩行時間)の存在が示唆された。
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