本研究は、テレビ等の映像世界を幼児がどのようにとらえているのか、実在の世界と区別される映像世界の表象性に関する理解はどのように発達していくのか、を明らかにしようとするものである。その際、幼児は現実と映像とをいつから区別するようになるか、といった二分法的な問いに基づいて研究を進めるのではなく、子どもは両者の基本的なクオリアの違いを早くから区別しながらも大人よりは遥かに高いリアリティを映像に感じており、その程度は映像の側の性質と子どもに提供される映像視聴の文脈に依存するとの仮説に立って、その検証をめざす。 すでに、このために、映像の側から子どもに様々な水準で働きかけがある場合と、子どもに映像への様々な働きかけを求める場合とを含む新しい実験課題を考案し、実験をはじめている。その中で、映像対象からの「志向性」を強く感じるほど、あるいは映像対象に対し「志向性」を強く向けるほど、映像と指示対象との境界は不鮮明となり、子どもにとって映像はそれだけ現実味を帯びたものとなるらしいことがわかってきた。また、こうした条件のもとでは、従来考えられていたより相当遅くまで(幼児期後期、児童期はじめまで)、子どもは映像を実在視する傾向のあることもわかった。 さらに本年度は、映像自体の実在感に影響を与える変数(主題、解像度、アニメーション化など)を操作した実験映像作成の可能性を探った。そのために、Focus Enhancements社製のデジタルビデオミキサー(MXProDV)を購入し、同一内容の映像の質感だけをさまざまに変えて子どもに提示できるようにした。このような映像刺激の変化が、映像に対する子どものリアリティ感にどのように影響を及ぼすかを具体的に検討することが、次の課題である。
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