1.今年度はこれまでの映像の表象性理解に関する実験データの一部を二つの論文にまとめ、その一つを刊行することができた。また、日本心理学会、日本発達心理学会でそれぞれ研究発表を行った。 2.今年度も昨年度に続き、現実世界と映像世界を区別する認識の発達に関与する要因を明確にするための実験を行った。これまで研究対象としてきた動画映像では関与要因が複雑であるため、いったん静止映像(写真)にまで単純化し、このような場合でも、年少幼児の場合にはなお実在視的反応が生ずるかどうかを検討した。これまでの研究では、既に1歳台後半から幼児は写真と現実の区別ができているとする報告が多数あるが、行動レベルで行われる写真と実在の区別は機能的な区別であり(e.g.写真の靴は履けない等)、写真は実在と視覚的には似ていても、実在の有する他の感覚的属性は共有していない(e.g.写真のショートケーキはなめても甘くない等)という認識に、子どもはすぐに到達するわけではないと思われる。したがって、この点を確かめるための実験を行った。その結果、4歳でも写真が実在と聴覚的、触覚的、味覚的、嗅覚的属性を共有すると思っている子どもが少なからずいることがわかった。5歳ではそのような子どもの比率は有意に減少した。写真が実在の属性をもたないという認識が感覚モダリティによって異なるかどうかは、さらに実験参加児の人数を増やしていっそうの検討が必要である。 3.今年度は、研究計画の最終年度にあたる。本研究の場合は、萌芽研究であるので、研究成果報告書の提出は義務づけられていないが、成果をまとめて残すことは有益であると考え、その作成に取り組んだ。
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