補助金交付時期が遅かったため(10月3日通知、11月初旬補助金交付開始)、初年度である17年度はまず基礎的な資料の収集に力を入れ、同時に留学生文学の分析をも開始した。 資料収集の面では、20世紀前半に日本あるいは欧米に留学した経験のある中国人知識人の著作をある程度幅広く収集するとともに、1980年代後半以降の海外留学ブームのなかの留学生の紀行文・体験記などの類を数多く収集することができた。 留学生文学の分析については、具体的には『中国留学生文学大系』(全6巻、上海文芸出版社、2000年)に収録されている作品群のなかで、日本留学経験者と欧米留学経験者の描く留学生活にどのような相違が見られるかという点に着目して分析をおこなった。その結果、日本留学経験者の作品には、日本社会に溶け込めぬ悲哀や日本人との人間関係に対する違和感を強くにじませたものが多い傾向があるのに対し、欧米留学経験者の作品には、欧米人との考え方・感じ方の違いに戸惑いつつも、欧米流の生活様式を受け入れようとする志向が感じられた。このような差異がどこから生じてくるのかについては、次年度以降さらに分析を深めていきたいと考えている。 資料についての分析と併行して、日本留学経験者の生の声を聴取するため中国・大連市において調査をおこなった。大連市を選んだのは、大連には多くの日系企業が進出し、そうした企業に日本留学経験者や日本語学科卒業生が多く採用されていることと、本学卒業生の王浩洋氏の協力が得られたことによる。その結果、多くの日本留学経験者が日系企業で雇用されているものの、彼らには事務的で単純な職務だけが委ねられ、必ずしも実力を発揮できる機会が与えられていないことに対する不満があることが分かった。欧米留学経験者との立場の違いについては、次年度以降の課題としたい。
|