研究概要 |
2年間の継続研究における2年目の研究目的は、一今日主流となりつつある構成主義的な学習スタイルで展開される小・中学校の理科授業に関して、教授(=教え)行為の実態を明確化することであった。これまでに収集した授業記録から、教師の支援行為で必要な事柄を列挙すると、およそ次の6点に集約することができるように思われる。 1.クラス内で共有されている、事象に対する子ども固有の表現(「社会的言語」化した言葉など)に着目し、子どもと事象との接点とその特徴を見出そうとすること。この事を実現するためには、十分な表現活動が保証されるべきである。 2.子ども固有の気づきを含んだ表現に対して、教師は、一貫して科学の視点から繰り返し関わっていくこと。(この事の実現においては、対話的な場と環境が必要になる。それは、言語的な対話のみならず、実験・観察など、事象を媒介した対話も含む。) 3.子どもの表現から判断できる発達の最近接領域(ZPD)の状態の把握と、教師からの「科学用語」や「理論、法則」の子どもへの提示(「足場づくり」をすること。) 4.学習した科学用語や理論等を用いて、他の事象を解釈させる等の要請をしていくこと。それによる「思考の文脈(用語や理論の適用の文脈)」の拡張を目指した言葉かけをしていくこと。 5.事象を説明するための足場として提示した科学用語や理論等が、子どもの内面に根を下ろしていく(=「専有」されていく)実態をモニタリングしながら、それらの使用状況に応じた復習的な学習場面や問いかけを提供していくこと。(コーチングとしての関わり) 6.新たな用語や理論が子どもに専有されつつある際には、徐々に説明等の表現活動を子どもに委ねて、徐々にフェードアウトするような関わりの視点を持つこと。(現実には、社会における仕事や作業等のように、限られた数の内容に習熟していくという形を理科授業はとらないので、次の学習や別の内容が、既習事項と以下に結びつくかの援助が、コーチングからフェーディングという関わりに相当すると考えられる。) これら6つの教授行為は、昨年報告したLave, J.ら(1993)の「正統的周辺参加論」、Rogoff, B.(1995)の「導かれながらの参加-専有」という社会文化的アプローチにおける学習論に依拠して抽出したものと言えるのかも知れない。しかし、上記の結果は、伝統的な教授スタイルと目されてきた「実験・観察でとらえたことを記憶させる」これまでの理科教授の姿ではなく、子どもが考えを創り、それを確かに自己の内面に棲まわせるために行われる今日的な「支援」の姿である。それは、まさにこれからの理科授業実践に必要とされる教授行為と言えるように思われる。
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