学校の音楽科授業における音楽鑑賞は、学習指導要領に示されるように、音楽の諸要素とその働きを聴取することを通して、その良さや美しさを感じ取り、子どもたちの感受性を高めることを目的としている。さらに音楽的知識や理解を深めることを含めている。また、授業評価が重要視される中で、子どもたちが鑑賞した後に記入する学習カードの項目が増えており、現状では、子どもたちはリラックスして鑑賞できる状態にあるとはいえない。学校における音楽鑑賞の目的については、その本質論からの論議が必要であることを感じているが、本研究では、現状の方向性とは異なる立場をとり、リラックスして心を癒すことができるような音楽鑑賞の授業のあり方について模索している。本年度は、昨年度の研究成果を受けて、心を癒すことを目的とした鑑賞授業の具体的なモデルを提案した。特に鑑賞時における子どもたちの姿勢や開眼、閉眼による違いなどについて検討した。音環境や適切な音量レベルについても検討した。鑑賞教材については、音楽科教科書に掲載されている楽曲をリストアップし、心の癒しという視点から考察を進めたが、それに該当する楽曲は限られていることが明らかになった。そこで、昨年度に引き続き、心の癒しという視点から鑑賞曲の教材化を試みた。脳波測定については、学生を対象としてデータ化を試みているが、脳波記録時における精神的状態の個人差や、音楽以外の刺激による影響があり、楽曲そのものによる差を十分に検証しにくい状況にある。次年度に向けて、より正確なデータを取得できるように、実験条件の統一などの準備を進めている。本研究では、α波(8〜13Hz)が優位となるような音楽鑑賞モデルの検証を進めているが、α波の発生機構として視床が関与しているという研究結果があることから、今後は音楽鑑賞が視床に与える影響についても注目したいと考えている。
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