明治末に東京盲(唖)学校卒業生を中心として刊行された点字雑誌「六星の光」を発掘・整理し、墨字化するという当研究プロジェクトの課題について、筑波大学附属視覚特別支援学校、同同窓会および後援会らの協力を得て、墨字化した資料を、研究協力者によって研究誌に掲載する段階まで進めることができた。第一に、当研究プロジェクトの模様が、『点字毎日活字版』紙上(2006年1月15日号)、学会発表等で報じられ、その保存と墨字訳の活動の研究的・教育的意義がしだいに理解されつつある。第二に、「六星の光」の墨字訳は予定よりも時間を要すること、人材不足(経験豊かな墨字校正専門家、点字知識を有す晴眼者)等の問題を抱えながらも、同校関係者らの協力により、研究支援体制が整備され、着実に研究作業が進行している。第三に、墨字化された大正初期までについて、当事者の教育や生活問題をめぐる認識や活動が整理されつつある。この時期は、盲学校の教育発展期であり、当事者活動の萌芽期でもある。たとえば、按摩専業運動に関しては、当事者による按摩専業反対意見が本誌において散見されているが、これはこれまで実証されなかった。彼らは、按摩専業論は対症療法的であり、鍼按の発達と研究を途絶すると批判し、直面する生活困窮問題の解決手段を教育の普及に求めるとともに、盲教育に対し、鍼按学研究の促進、新職業の開拓、盲人の社会的地位の向上等の期待を寄せている。また、盲人文化運動に関しては、東京盲(唖)学校卒業生(熊谷鉄太郎、岩橋武夫、エロシェンコ、鳥居篤治郎、橋本喜四郎、斉藤武弥ら)が中心となり、その後の盲人の福祉と文化の向上に多大な貢献をしたとされてきたが、これまでの本誌論稿の分析と同時期のエスペラント関連雑誌(『エスペランタリギーロ』)との対照によって、エスペラント運動との関連が示唆されるに至った。
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