研究概要 |
トーリック多様体を記述する扇は有理点で生成される有理錐の集まりである.有利性の条件をはずした桐野集まりを実扇と呼ぶことにすると,実扇を一種の多様体と考えるとも自然である. まず2007年に東北数学雑誌に掲載された研究代表者とエバルト氏による共著の論文では,実扇も含めた扇の完備化が可能であることの直接証明がより得られた.この論文では,実扇を多様体と考えて,永田による一般の代数多様体の完備化の存在証明と同様に,実扇に対して定義したザリスキ・リーマン空間やブローアップを使って代数幾何学的に完備化の存在証明を行った. 錐の有理性を仮定しないことは,代数多様体としては正則関数の実数ベキまで許すことに相当する.これをトーリック多様体以外にも拡張することがこの研究の目的である.1年目は主に実扇を一般の代数幾何学的観点から研究したが,2年目の今年度もこの問題についてより具体的な代数曲線論や代数曲面論などの角度から研究を行った. 幾何種数と不正則数か□1で,標準因子の自己交点数か□3となる複素数体上の一般型極小曲面Sを,カタネーゼ・チリベルト曲面という.そのアルバネーゼ写像はある楕円曲線Eへの全射となり,一般ファイバーは種数gか□2または3の非特異既約曲線である.このカタネーゼ・チリベルト曲面Sが,g=3で,しかもこのベクトル束によりE上の射影平面束に埋め込まれ,さらにaの特異ファイバーか□1本だけの場合にCCI曲面と呼ばれ,石田弘隆氏による研究がある.本研究の一面として,CCI曲面のモジュライ変数を楕円曲線の不分岐3重被覆とヘッセの3次曲線族の観点から求めた.この研究は単著の論文として完成し,現在投稿中である.
|