研究概要 |
本研究の最も重要な主題の一つは無限次元微分ガロア理論である.研究代表は1996年に新しい無限次元微分ガロア理論を提案した.一方Malgrangeはこの研究に刺激を受けて,2001年に別の無限次元微分ガロア理論を提出した. 梅村の理論は微分拡大体のガロア理論である.すなわち,微分体の拡大L/Kが与えられたとき,その一種のガロア閉包を構成し,その無限小自己同形群として与えられた微分拡大L/Kのガロア群を定義する.他方Malgrangeの微分がアロア理論は多様体上の葉層のガロア理論である.すなわち,多様体上に葉層が与えられたとき,そのリー環が葉そうに接するベクトル場全体を含む最小の代数的リー擬群を,その葉層のガロア群と定義する, これら二つの定義は一見関連がないようにみえるが,専門家たちは実例を計算すると,両者が一致するのを観測していた.ここ数年の最も著しい成果は,絶対的な体の拡大L/Kの場合(基礎体KがLの定数体に含まれる場合)二つの定義が同値であることを示した.絶対的とは限らない場合にも同様の結果が成り立つことが期待されるが,微妙な問題もある,例えば一般の場合にMalgarange流の葉層によるガロア群の定義は厳密になされていない.また微分形式を用いた計算にも問題がある.例えばパンルベ第6方程式におけるPicard解のガロア群の計算にしてもそうである.要約すれば微分ガロア理論では様々な計算が,厳密でない基礎の上に成されている.ちょうど19世紀の終わりに代数幾何学においてイタリア学派が活躍したように.これらの計算を厳密で明解な基礎の上に打ち立てるのが急務であろう.
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