研究概要 |
複素多様体の従来の研究においては,内積として定義されるエルミート計量やケーラー計量が用いられ,成功をおさめてきた.しかし,多変数複素関数論や正則ベクトル束などの研究においては,ノルム構造として定義される複素フィンスラー計量の方が,より本質的な役割を果たすと期待される. 本研究の目的は,コンパクト複素多様体に対するHartshorneの予想の微分幾何的証明を目標に,閉リーマン面から複素フィンスラー計量をもつコンパクト複素多様体への調和写像の研究を軸に,複素フィンスラー幾何学における調和写像論を構築することである. この目的に沿って,今年度は次のような研究を行った. 1.閉リーマン面から複素フィンスラー多様体への微分可能な写像に対して,その微分の複素化は,接ベクトル束の正則および反正則部分束への分解に応じて,4つの部分に分解される.研究代表者・西川は,咋年までの研究において,この分解のうち,リーマン面の反正則接ベクトル束を複素フィンスラー多様体の正則接ベクトル束へ移す部分の複素フィンスラー計量によるノルムを用いてエネルギー汎関数を定義し,第1変分公式と第2変分公式を求めた. これらの公式を求める際にあらわれた弱ケーラー条件の幾何学的意味を研究する過程で,リーマン面の正則接ベクトル束を複素フィンスラー多様体の正則接ベクトル束へ移す部分のノルムから定義される汎関数も同時に考え,これらを対としてエネルギー汎関数を考察する必要性が明らかになった. 2.このようなエネルギー汎関数の臨界点としてえられる写像の微分可能性に関して,研究分担者・立川は,一般に非線形項が解の1階微分の2次式であるような非線形汎関数で,非線形項の係数がVMO関数であり,かつ非線形項がCaratheodory関数であるものに対して,その弱解の部分正則性(ヘルダー連続性をもつ部分の特徴づけ)を証明した.
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