研究概要 |
1.AdS/CFT対応 双対性(duality)とは、異なる自由度・作用汎関数・対称性・相互作用等を持った物理系が量子論としては全く等価になることを指す。特にAdS/CFT対応は、ゲージ理論と重力理論が実は同じ理論の二つの側面であるという大胆な予想であり、これを理解することは弦理論の最も重要な課題の一つである。 AdS/CFT対応によれば、任意のN=1超共形対称4次元ゲージ理論に対応する5次元のSasaki-Einstein多様体Yが存在し、Yの幾何学がゲージ理論の物理に反映されると考えられている。ゲージ理論の場の演算子の厳密なスケーリング次元は、anomalyに由来するある多変数3次関数の最大化問題(a-maximization)として計算できる。しかしながら「解の存在と一意性」「不安定極値(鞍点など)の非存在」といった基本的な問題が未解決であった。双対性の検証のためにはdual geomctryを仮定せずにこれらを示す必要がある。quiver gauge理論の場合に上記3次関数がzonotopeと呼ばれる3次元凸多面体の体積として特徴付けられることを発見し、体積の関数の凸性(Bru-Minkowski不等式)を用いてこれらの性質を証明することができた。また異なる解の間の隣接関係(繰り込み群の流れ)についても新たな知見(単調減少性など)を得ることができた。 2,Dixmier予想 近年の非可換幾何学への関心の高まりに関連し、量子力学における最も基礎的な非可換環であるWeyl代数の構造が再び注目されつつある。Wey1代数=調和擬動子は場の理論の下部構造をなし、その構造を詳しく知ることは双対性を理解する上でも重要である。n次のWeyl代数A_n=A_n(K)とは、2n個の元p_j,q_i(i=1,…,n)で生成され、[p_i,q_j]=δ_ijを関係式とするK上の多元環のことであり、多項式を係数とする微分作用素のなす環と同型である。 Weyl代数A_nは単純純環であることから、A_nの任意の自己準同型は単射である。Dixmier(1968)はA_1の構造を詳紬に調べ、いくつかの問題を提出した。その1つは『A_1の任意の自己準同型は自己同型であろうか?』というものである。この問題は長らく未解決であったが、n=1の場合を肯定的に解決できた。
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