研究概要 |
4元数ケーラー多様体とはホロノミー群がSp(1)Sp(n)というSO(4n)の部分群に含まれるリーマン多様体のことである.正のスカラー曲率を持つコンパクト4元数ケーラー多様体はWolf空間とよばれる対称空間で尽きるという予想がある.この予想は接触ファノ多様体の分類という代数幾何の問題とも同値であるが,現在まで未解決である. 本研究ではこの予想にRicci flowの方法でせまってみようと思った.4元数ケーラー多様体にはtwistor空間とよばれる複素多様体が対応している.スカラー曲率が正のとき,それは接触ファノ多様体であり,4元数ケーラー多様体上のS^2バンドルである.4元数ケーラー構造から自然に決まる接続が決まり,したがってファイバーではS^2の標準計量,射影がリーマン沈め込みになるような計量が,ファイバーに入るS^2の標準計量のスケールを除いて決まる.この計量の1パラメタ族に全体のスケーリングを付加した2パラメタ族をtwistor空間上の標準計量の族とよぶことにする.最初のスケールがある特殊な値をとるとき,この計量はケーラー・アインシュタイン計量になるので,このスケールをKEスケールとよぶことにする.本研究において,この計量のスケールをKEスケールと異なる標準計量にとってRicci flowを走らせてみた.するとこのスケールがどんなにKEスケールに近くても,Ricci flowの軌道は近くある「不動点」であるケーラー・アインシュタイン計量に落ち込むことはなく,有限時間のうちにS^2ファイバーがつぶれる崩壊を起こすか,S^2ファイバーにそって計量が爆発していくカルノ・カラテオドリ計量に近づくかしながら,全体が収縮して消滅してしまうことが分かった.これは4元数ケーラー多様体の曲率テンソルの特殊な構造がRicci flowに与える効果である.このようなデータから,スカラー曲率が正の4元数ケーラー多様体の一意化問題に対する何らかの新しい知見が得られるかどうか,現在考察を進めているところである.
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