数理物理学と数学、特にその幾何学の領域において、非可換構造や高次のコホモロジーの役割を要求する、目覚しい相互作用が起きているように見える。たとえばミラー対称性をはじめとする弦双対性を説明するには、空間概念の革命的な拡張が必要と思われる。 良い性質をもつ(弱)A無限大代数の加群の導来圏は「非可換多様体」であるとみなすことができる。「原始形式の理論」は、「非可換多様体」に対する「周期」の理論であって楕円積分論の自然な拡張となる理論、であると期待される。そこではミラー対称性をはじめとする弦双対性は「座標変換」の役割を果たす。これは新しい空間概念への一歩となると考えている。 本年度は(弱)A無限大代数およびその加群の導来圏による、「原始形式」と「平坦構造」の統一的導出を目標に研究を行つてきた。より具体的には、特異点理論で80年代中旬に開発された「行列分解」のアイデアを用いて、ある代数的に定義される導来圏を、ゴーレンシュタイン指数が負の特異点の場合に解析し、例外型と呼ばれるルート系がその圏のグロタンディーク群によって記述されることを示した。そして論文「Categories of graded matrix factorizations for exceptional singularities」(梶浦宏成-齋藤恭司-高橋篤史)としてまとめているところである。 また、導来圏からリー環・原始形式を復元することを念頭に、RIMS研究集会「原始形式の圏論的構成」を開催した。国内外の多くの研究者との研究交流を行い、来年度以降の研究にも重要となる多くの知見を得ることができた。
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