本年度は当研究の初年度であり、バイカンドルの定義の見直しを行った。これまでバイカンドルの定義は、Kauffmanによるもの、Fennによるもの、当研究代表者によるものなど様々であった。Fenn教授と本年度討論を行い、もっとも適切であると思われる定義のひとつが得られた。また、Fenn教授の以前の定義には、他の関係の帰結であるような関係式が定義に含まれていることも分かってきた。バイカンドルの生成元と関係式による表示(バイカンドル表示)も具体化してきたが、依然として自由バイカンドルの自然な解釈が得られておらず、今後の課題である。とくに、与えられたバイカンドル表示が自明な結び目の表すバイカンドルに同型であるかどうかを判定する問題でさえ困難な状況である。しかし、Fenn教授の協力のもとで4元数を利用したある非可換環上の加群がなすバイカンドルの不変量が考案され、その有効性も分かってきた。たとえば、岸野の仮想結び目と呼ばれる結び目図式から得られるバイカンドルは自明な結び目のバイカンドルと異なることが簡単な計算で示される。この事実は3次のケーブルをとってジョーンズ多項式を求めるという方法で示されていたが、それはコンピューターを用いた膨大な計算が必要であった。4元数バイカンドルの不変量は手計算でも可能であり、今後結び目理論の研究に多く利用されると思う。 新しいバイカンドルの定義に沿ってコンピューターを用いて有限バイカンドルのリストを構成する計画は次年度に行う予定である。
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