研究概要 |
本研究の目的は,エルゴード理論と計算理論の墳界領域に位置する未解決問題のいくつかに挑戦し,その過程を通じて統計力学を数学的に基礎づけるための新たな方法論を模索することにある.本年度の主な研究成果は以下の通りである. 1)アルゴリズム的Barron-Oreyの定理:アルファベットの片側無限列全体の集合上の計算可能な確率測度Pに対し,.そのエフェクティブな台(マーチンレフ乱数全体の集合)をR(P)と書くことにする.2つの計算可能な確率測度P, Qに対し,PとQが互いに特異であるための必要十分条件はR(P)とR(Q)が互いに素であることであり,この条件は,R(P)の任意の元 x=(x^n)に対し,尤度比Q(x^n)/P(x^n)がゼロに収束することと同値である.本研究では,Pが定常エルゴード過程,Qが有限次マルコフ過程である場合にこの収束レートを評価するBarron-Oreyの定理のアルゴリズム版を研究した,これは,昨年度に行ったアルゴリズム的Shannon-McMillan-Breimanの定理の一般化であり,研究計画当初から無限データ系列空間上に情報幾何構造を導入するための鍵となる研究と位置づけて来た重要なステップである.具体的には,Pの有限次マノどコフ近似と相対エントロピーレートの単調収束性に基づき,(相対エントロピー密度)/nの下極限が相対エントロピーヒートD(PIQ)以下となる無限データ系列を棄却するマーチンレフテストを構成することにより,Pに関する任意のマーチンレフ乱数xに対し,(相対エントロピー密度)/nの下極限が相対エントロピーレートD(PIQ)に収束することを証明した.しかし,測度論的Barron-Oreyの定理からその成立が予想される上極限の収束はまだ未解決であり,今後も研究を継続していく.
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