研究概要 |
本年度の研究においては,単位元を持つクラン上の基本相対不変式を,様々な観点から取り扱った.特に,分担者伊師が2001年の論文で確立した基本相対不変式を求めるアルゴリズムにより,10次元以下の既約なクラン上の基本相対不変式を,金行・辻による1974年の論文でなされている10次元以下の既約なクランの分類に従って,すべて書き下した.これのための集中セミナーを,代表者の所属機関である九州大学大学院数理学研究院で4回,分担者伊師英之,京都大学大学院生,甲斐千舟(D3)と渡辺有介(M2)達と共に,本科学研究費補助金から旅費を支出することにより行った.またそのセミナーでの議論の過程で,クラン及びその双対クラン上の基本相対不変式達の次数によって,そのクランがジョルダン代数に由来するものになっていることを特徴づけることが可能ではないか,という問題が浮かび上がり,平成18年1月に定理として証明を書き下し,渡辺の京都大学修士論文には含めたが,本報告書を書いている時点で証明の詳細を吟味中である.本研究補助金の継続が予定されている平成18年度中には,学術論文として投稿出来るように細部に渡って検討したい.さらに,この基本相対不変式の研究により,非対称な等質開凸錐で,それに付随するクラン上の基本相対不変式の次数が,1,2,…,r(rはクランの階数)となっているものの系列を見い出すことができた.なおこの系列については,平成17年11月の表現論シンポジウムにおいて,報告を行った.非対称な開凸錐上の調和解析やPlancherel公式の導出に期待と展望を抱かせる系列である. また本研究補助金から渡航費・滞在費を支出して,平成18年3月に,ピサ高等師範学校(イタリア)にRicci教授,マインツ大学(ドイツ)にGramsch教授を訪ね,彼らと等質領域上の非可換調和解析学について研究討議を行う.
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