研究概要 |
今年度は、九州大学のL.Weng氏とシンガポール国立大学のW.-K.To氏との共同研究が完成し、現在論文を投稿中である。その中で、Takhtajan-Zograf計量のモジュライ空間の境界近傍における漸近挙動を詳しく解析することに成功し、その結果、すべての境界近傍で、Takhtajan-Zograf計量はWeil-Petersson計量より真に小さいオーダーで挙動することを明らかにした。このことからすぐ従うことは、Mumfordらの定義したモジュライ空間上のdeterminant line bundleの第一チャーン類が、Mumfordコンパクト化したモジュライ空間まで、正のline bundleとして自然に拡張できることである。これについては、現在論文を準備中である。 また、だいぶ前にS.Wolpert氏と共同で得た「Weil-Petersson計量の漸近展開の2次の項にTakhtajan-Zograf計量が現れること」を発見した論文の原稿を完成し、近々投稿予定である。 今年度6月に当研究費を用いて、ニューヨーク州立大学ストーニーブルックのL.Takhtajan氏を招聘し、私の得た結果について紹介、検討を行い、非常に有益であった。来年度9月に、再びTakhtajan氏と日本で会う予定があり、また研究を深めていきたいと考えている。 今年度8月には、当研究費を用いて、マドリッドで開かれた国際数学者会議に参加した。専門の近い研究者の質の高い講演を聞くなど、有益な経験であった。 一方、Weil-Petersson計量はW.Thurston, Wolpertにより測地線の分布密度との密接な関連が示されているが、研究代表者はP.Sarnakが点付きリーマン面上のホロサイクルの分布密度とEisenstein級数の関係を明らかにした研究に強い関心をもち、この文脈においてTakhtajan-Zograf計量の新解釈を与えるべく、努力を続けている。 11月に韓国高等研究所のJ.Park氏が研究代表者の研究に興味を持ち、当研究所に旅費支給付きで招聘した。研究代表者の研究結果を紹介、議論し、Park氏の専門分野からの新しい問題意識から、我々の新しい共同研究の芽が生まれつつある。具体的には、「モジュライ空間上のdeterminantline bundleのQuillen計量のモジュライ空間の境界近傍における漸近挙動を直接的に解析する」という課題に取り組み始めている。
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