本研究は、ねじれ秤を用いてカシミール力を精密に測定することにより、量子電磁力学を検証することと素粒子標準理論を越える未知の力を探査することを目的として行われた。 実験準備段階として、まずねじれ秤を用いた近距離微小力の測定装置の開発を行った。これはねじれ秤に対して電場による制御を行い、地面振動などの影響を押さえ込む役割をする。ねじれ秤を用いた数μm程度の近距離力の測定では、地面振動や地面の傾斜の影響が最も大きな誤差源となる。我々はねじれ秤を用いたカシミール力の測定において、地面の振動や傾斜がどのような経路で極板間距離に伝達されるのかを明らかにし、地面振動が十分小さい場所(国立天文台江刺地球潮汐観測施設)において磁場による減衰を用いることで、カシミール力の測定に対してその影響が十分小さくなることを示した。 この近距離微小力測定装置を用いて、国立天文台江刺地球潮汐観測施設にて、金の極板の間にはたらく力を0.4〜6.5μmの範囲で測定した。その結果、0.4〜2.0μmまでの広い領域での測定データにおいて有意な結果が得られ、極板の形状及び金の導電率が有限である効果を含めて予測されるカシミール力の理論予測と5%の精度で一致した。またこの実験結果を元に、カシミール力に対する有限温度による2つの異なる補正モデルを検定し、1つのモデルを3.5σ相当の信頼度で棄却した。さらに測定データとカシミール力の理論値との残差から、ニュートン重力への湯川型の補正項への制限を95%の信頼度で求めた。これにより1μm付近での上限値で過去の実験と比較し、最大で5倍厳しい制限を与えた。これらの結果は学生1名の博士論文としてまとめられ、東京大学理学系研究科にて平成17年9月に受理された。現在、ジャーナルへの投稿準備中である。
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