(1)グラファイトFET構造の作製条件の確立とフェルミ準位制御 超薄膜グラファイト単結晶の電界効果トランジスタ(FET)素子構造を作製し、ゲート電圧によるフェルミ準位の制御を試みた。酸化膜付導電性Si基板上にKishグラファイトを粘着テープを用いて固定・劈開し、残ったグラファイト薄膜に対しリソグラフィー法により電極形成・エッチング整形を施して素子構造を作製する。各工程の条件最適化を行い素子作製手順を確立した。バックゲートとして使用する酸化膜付導電性基板には予め位置決めマークを設けておき、その上に付着・壁開して残ったグラファイト片のうち膜厚が極力薄い均一なものを光学顕微鏡で探し出し、マークを基準に位置座標を算出する。目標座標に電子線描画を施し、各種プロセスを重ねていく。電極はNiCrを接着層としてAuを真空蒸着した。またグラファイトの加工は酸素イオンビームによる反応性エッチング法で行った。以上の結果、ゲート電圧による伝導度制御(FET動作)可能な、厚さ10nm程度のグラファイト超薄膜FET素子が作製可能となった。 (2)グラファイトFET素子を用いたフェルミ準位制御による強磁場磁気抵抗の研究 作製した素子と現有の超伝導磁石(<13T)を用いて、強磁場磁気抵抗のゲート電圧依存性の測定を行った。まずShubnikov-de Haas振動のゲート電圧依存性からフェルミ準位の変化を確認した。バルク単結晶の場合、グラファイトの横磁気抵抗は磁場に対して線形に増加するという著しい特徴を持っ。実験の結果、薄膜化すると磁気抵抗の線形性が破れること、ゲート電圧を印加すると線形性が復帰する傾向があることを見出した。量子極限近傍における不純物ポテンシャルの遮蔽長の磁場変化によって、観測された現象を説明する可能性を検討した。
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