高分子球晶の一次核形成速度が非常に遅いイソタクチックポリスチレンを用いて、融液中で球晶を意図的に並べるための各種実験を継続的に行った。不作為による球晶発生の確率が低く、核発生要因の導入によって意図するところに容易に球晶を発生させられる可能性が高い。 その結果、核剤の導入だけではなく、ミクロンサイズの混入物の導入、融解記憶効果の活用、キャビテーションの発生等によって、融液中にミクロンサイズの局所的な応力分布を導入することにより、球晶の一次核の形成を制御できることがわかった。応力が集中している場所からの球晶の発生確率が飛躍的に増大するのである。このことを活用することによって負圧を発生させるための「器」の作成が可能になると考えられる。 また、高分子融液中でキャビテーションを生成するような負圧を発生させるためには、結晶・非晶密度の差異を利用するだけではなく、試料の急激な加熱・冷却による融液の急激な体積変化を利用すると、局所的に負圧を生成し、両面がガラスに挟まれただけで周囲が開放されている融液においてもキャビテーションが発生することがわかった。これによりアタクチックポリスチレンにおいても同様のキャビテーションが観察され、生成消滅過程において、やはりオストワルドライプニング的な挙動が観察された。 高分子融液の囲まれていない融液領域におけるキャビテーション形成は、そのキャビティまわりの分子の局所的配向と局所的な応力分布を伴っており、このキャビティの発生・発展・消滅のメカニズムは非線形・非平衡な構造形成として、ソフトマターの物理学の観点から非常に興味深い現象である。高速度カメラを導入することにより、この過程を撮影観察し詳細について検討した。
|