ラチェットとは、非対称ポテンシャル中の粒子の拡散に方向性を生み出す機構であり、生体内の分子モーターや筋肉、マイクロマシンの動力などのモデルとして注目され、さまざまな分野で盛んに研究されている。本研究は、強磁性細線中に非対称構造を付加することで磁壁移動に対する非対称ポテンシャルを構築し、単一磁壁の動的挙動について詳細に検討することで磁壁移動における磁気ラチェット効果を研究することを目的としている。巨大磁気抵抗効果を用いた電気的検出法と磁気力顕微鏡による直接観察によって実験を行った。本年度に得られた結果を以下にまとめる。 (1)外部磁場による磁壁移動におけるラチェット効果 非対称周期構造をもつ強磁性細線の中では、磁壁移動に必要な磁場が磁壁移動方向に依存することを見出した。これは磁性細線に付加した非対称構造が磁壁伝搬に対して非対称ポテンシャル障壁として働くことを意味する。非対称周期構造を系統的に変えた実験を行い、外部磁場による磁壁移動における磁気ラチェット効果を詳細に検討した。 (2)電流誘起磁壁移動におけるラチェット効果 外部磁場を用いなくとも磁性細線中を流れる電流と磁壁の相互作用を利用することで磁壁を移動させることが可能であることが最近実験的に確認された。この電流誘起磁壁移動について非対称周期構造をもつ強磁性細線中の磁壁に対して研究を行った。磁壁移動に必要な電流密度が磁壁移動方向に依存することがわかった。これは電流誘起磁壁移動現象においても磁性細線に付加した非対称構造が磁壁伝搬に対して非対称ポテンシャルとして働くことを意味する。
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