今年度は、17年度に開発した運動量イメージング計測装置を用いて、希ガス混合クラスター及びπ共役電子を有する有機分子の実験を行った。運動量イメージング計測装置では、飛行時間型質量分析器に2次元検出器を組み合わせることで、生成した多数のイオンについて質量電荷比と運動量を計測可能な装置である。 希ガス混合系としては、クラスター中に原子数比で1%のクリプトン原子を含むアルゴン-クリプトン混合クラスターを作製し、クリプトンのK吸収端近傍のX線を照射してクラスターをイオン化した。生成した電子とイオンの同期計測を行うことで、クリプトン原子のX線吸収によって生成したイオンの分布と運動エネルギーを得た。実験結果から、アルゴン-クリプトン混合クラスターにおいては、クリプトン原子上で生成した電荷はクラスター中で比較的局在しており、高々第2隣接原子程度まで広がった後、クーロン爆発によって解離子イオンが生成していることが明らかとなった。また、得られたイオンの分布からは、アルゴン-クリプトン混合クラスター中においては、クリプトン原子周辺にはアルゴン原子が配位しやすい傾向が明らかとなった。このような結果は、これまでの研究から予想される、希ガスクラスターが典型的な絶縁体であることや、アルゴン-クリプトン混合クラスターで均一混合する傾向が強いこと等と一致しており、本研究で開発した装置や解析手法で真空中に孤立した単一クラスターの電気伝導特性の計測が可能であるとともに、相分離傾向の探索にも転用可能であることを示していると考えられる。 さらに今年度新規に開発した分子ビーム生成装置を用い、分子ワイヤとして応用が期待されるπ共役電子を有する有機分子、特にビフニニル系化合物の実験を行った。特に臭化ビフェニルと臭化フェノールそれぞれで、臭素原子でX線吸収を起こし、解離イオンの分析を行ったところ、分子長に伴う伝導特性の変化を強く示唆する結果を得た。 以上により、本研究で開発を行っている非接触式の電気伝導特性計測手法は、クラスターにとどまらず単一分子の計測にも適用できる事を強く示唆する結果を得た。
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