研究概要 |
北太平洋には黒潮・親潮・アラスカ海流といった強い西岸境界流が存存する。その左右には「流れに沿い,あるいは逆行する」という意外な向きをもった渦成水輸送(平均流で表現できない水輸送)が発生している。従来の知見に全くなかったこの新しい問題(現象)を掘り起こし検討した。 1.数値実験とその解析 流れの右手側に流れと逆向きの,左手側に流れと同じ向きの渦成水輸送が発生していることが分解能の高い海洋循環模型による数値実験で分かった。渦成水輸送の向きは黒潮,親潮(源流域),アラスカ海流という三つの強勢な表層海流に共通している。 但し渦成水輸送の水平・鉛直分布を子細に調べると微妙な違いがある。例えば渦成体積輸送の符号が逆転する位置は流軸(平均流速が最大値になる位置)上でない。流軸付近で見ると,黒潮なら流れと同じ向きに,親潮・アラスカ海流なら流れと逆向きに渦成水輸送が起こっていた。前者では海岸線が流れの左手側にあり後者では流れの右手側にある。また後者では季節変動が卓越していた。 2.流軸変動を考えた模型に基づく渦成体積輸送の定式化 静止した下層の上にある単一の表層が地衡流平衡の状態を保ちつつ流れているとする。流速分布を変えず流軸が左右に揺れるとすると,渦成体積輸送は流れの右側で流れと逆回きに,左側で流れと同じ向きになることが分かり(北半球),実験結果を定性的には説明できそうである。この「流軸変動模型」に基づき渦成水輸送(層厚輸送)を表現する簡単な定式化を行った。渦成水輸送の量と向きは流れの幅や流軸の揺れ幅に依存するが,確かに流軸の右側で逆向きの,左側で同じ向きの渦成水輸送となる。 数値実験と流軸変動模型には食い違う点も多い。流軸変動模型を基礎に据え広い可能性を取り入れた適切な定式化をしていきたいと考えている。
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