鉱物と始源生物の関係は古くから問われている課題であるが、未解決である。本研究では、海底熱水活動で無機物沈殿と化学合成細菌微生物マット形成が同時に起こっている試料を採集し、そこでの微生物生態層解析を遺伝子情報および酵素活性情報から規定する。この解析により、そこでの微生物がどの無機元素を必要とするか限定される。更に無機物、金属-有機錯体、微生物-無機物界面をナノスケール・分子レベルで観察・分析を行う。それによって始源的生物が鉱物をうまく活用し生息している様子を具体化してゆく。本研究を推進するためにJAMSTEC調査船による航海を行った。過去に掘削を行った2つの海域(水曜海山と南部マリアナ)の航海を7月と9月に行った。外国旅費は主に海域に移動するために用いられた。備品購入したポンプもこの航海時の試料採集のために用いられた。既に海底に設置されているパイプ内に発達した微生物マット採集に成功した。しかし当初の予定とは異なり水曜海山からの試料は鉱物で固められ化石化したものであったが、研究目的を果たすのに支障はない。東京薬科大学の微生物研究者が、我々の研究と同時並行で微生物相解析を行っている。東北大学に持ち帰った試料は、環境制御型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡などで観察された。特に透過型電子顕微鏡でアモルファス鉱物中の生体必須元素(特にリン)の濃集形態や、微生物との界面の観察が行われた。FT-IR、ラマン分光分析も行い、当初想定していた有機-金属錯体の存在が具体化されつつある。
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