研究概要 |
本計画の可否は試料室と検出器の差動排気を効率よく行えるか否かにかかっている。差動排気に手持ちの1500L/sのターボ分子ポンプを流用する予定であったが多少手を入れる必要があることが判明し、磁気ベアリングなど部品を購入してオーバーホールを行った。現在超臨界流体を真空チェンバーに導入するための設計を行い、チェンバーの改造に手をつけかけている状態である。 電子運動量分光による実験結果を理論計算と比較する際、実験条件によっていろいろな近似が利用できるか否かについては未だ明確に検討されてはおらず、高い衝突エネルギーで結合エネルギーの小さな電子に関して実験するほどより簡単な近似が大きな移行運動量まで利用できると一般的に云われているにすぎない。そこで、水素分子、Ar, Kr, Xeなど素性のよく知れた原子・分子をターゲットとして電子運動量分光測定を衝突エネルギー2keVとこれまで以上の高エネルギーとし、またこれまでに例のないほど大きな移行運動量(3.5au)にまで範囲を拡げて測定を行うとともに、平面波近似、歪曲波近似、ボルン近似、インパルス近似等を適用した理論計算を行い、それぞれの妥当性について検討した。その結果、衝突エネルギー2keVではAr3p, Kr4p, Xe5pなど最外殻電子については移行運動量1.8au程度まで平面波近似でよいがそれ以上では歪曲波近似が必要であること、内殻のAr3s, Kr4s, Xe5sなどについてはその境が1au程度になることが判った。ボルン近似とインパルス近似の差はあまりない。この結果はPhysical Chemistry and Chemical Physics誌に投稿中である。
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