研究概要 |
「電磁波誘起透明化」(Electromagnetically Induced Transparency, EITと略)と呼ばれる物理現象を、現在提案されている理論的な予測に基づき、単一光子(ガンマ線光量子)レベルで実験的に検証するのが本研究の目的である。具体的には、メスバウア分光法におけるガンマ線の共鳴吸収、原子核準位のLevel-mixingを利用して、EITの起こりうる条件を^<57>Feのメスバウア遷移において実現し、理論の検証実験を行う。 今年度は、試料となるメスバウア測定に使う吸収体として、本実験試料として要求される条件(c軸対称の四重極相互作用、磁気的相互作用を有する鉄(II)の化合物の単結晶)にあった鉄化合物の探求を行った。さし当たっての候補と期待されるFePSe_3、FePTe_3の単結晶作成を試み、それらのメスバウア効果の測定を行った。FePSe_3、FePTe_3の合成は、Fe、P、SeあるいはTeの化学量論量をよく混合した後、Vycolガラス管に真空封入し、それを温度制御された電気炉中で加熱することによって行った。反応温度800℃、860℃で、約1ヶ月間反応させ、2週間程度かけてゆっくり冷却した。生成物はメスバウア測定の吸収体に用いることができるほどの大きさの単結晶として得ることができなかったので、メノウ乳鉢にて粉末にし、X線回折、メスバウア測定用試料とした。FePSe_3試料は、メスバウア測定から、わずかに不純物相の存在を示すスペクトルが観測されたが、主要な相は目的のFePSe_3で構成されていると思われ、測定温度を下げてゆくにつれて、反強磁性に転移した結果、6本の磁気分裂ピークを示した。温度を次第に下げてゆき、|I=3/2,m=+1/2>と|I=3/2,m=-3/2>の準位が交差する温度を探したが、不純物相の影響でスペクトル解析が複雑になる影響で、問題の温度を特定することができず、したがってEITの検証実験に適した物質であるかどうかの判定についての結論も下せなかった。FePTe_3試料では、メスバウア測定からだけで判断すれば、合成された物質中のFe原子は単一相にあると思われたが、FePTe_3という物質に関する報告(論文)がないこと、また、X線回折、元素分析の結果も確定しておらず、目的の物質である確証が得られていない。しかし、室温から20K付近までのメスバウアスペクトルの測定からは、反強磁性への相転移と思われる磁気分裂ピークやスペクトルの温度変化が観測されており、興味深い物質である。 FePSe_3、FePTe_3の両物質ともに、純粋な物質で、しかもある程度の大きさの単結晶が生成する条件を探索し、EITの検証実験に使える物質であるかどうかを見極めることが当面の課題である。
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