金(I)錯体をベースとした高次金属クラスター化の研究を展開することによりクラスター空間場に関する知見と新たな構造構築経路の探索を目的として、昨年度は19核及び25核Au-Agヘテロ金属クラスターの合成とX線構造解析を行うことに成功した。その結果、金属クラスター構造の形成に関する構造構築経路について興味深いいくつかの知見が得られた。 本年度は、もう一つの空間力である金-金相互作用(オーロフィリシティー)に重心を置いて研究を行った。まず、配位子としての機能を付与した金(I)錯体[Au(4-Spy)(P(3-CF_3C_6H_4)_3)]を単座配位子として用いた銅(II)錯体及びレニウム(I)錯体とのヘテロ金属錯体の合成を試み、その単離にそれぞれ成功した。これらのヘテロ金属錯体に関するX線構造解析の結果より結晶構造中でのオーロフィリシティーによる金属クラスター形成の存在を明らかにした。(第56回錯体化学討論会)更に、金2核錯体を架橋配位可能な2座配位子として利用した銅(II)錯体とのヘテロ金属錯体反応により、金属イオンの配列として金(I)-銅(II)-金(I)の配置を持つ3核錯体という新たな錯体系の合成に成功した。この3核錯体は金(I)2核錯体が架橋配位子となり一次元ポリマー鎖の分子構造を一次構造として有しており、更に結晶構造中ではオーロフィリシティーにより錯体ポリマー鎖間が結び付けられた三次元網目構造をその二次構造として形成していることが判明した。この分子構造は、これまでのヘテロ金属クラスター形成から更に発展したオーロフィリシティー発現に伴う高次構造化であり、報告例が殆ど無い特筆すべき結果である。
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