報告者は既に、アルキンの三量化により新たなベンゼン環を構築すると同時に、アルキン上のアリール置換基と生成するベンゼン環との間に軸不斉を創製する新たな形式の触媒的不斉反応を見いだした。すなわち、キラルイリジウム触媒を用いることにより、対称ジインと対称アルキンのエナンチオ選択的[2+2+2]付加環化反応が進行し、高不斉収率でC2対称キラルテルアリール化合物が得られる。平成18年度は、本反応の基質一般性の拡大、本反応形式の応用に重点を置いて検討を行った。 これまで用いた対称アルキンに替え、非対称なアルキンを用いて反応を行った結果、ほぼ完全なジアステレオかつエナンチオ選択性を達成し、水酸基、アミノ基、ホスフィニル基など種々の官能基を有するキラルテルアリール化合物が得られた。特にプロパルギル位にアミノ基と水酸基を有するアルキンとの反応では、軸不斉を有するアミノアルコールが得られ、その絶対立体配置をX線結晶構造解析により決定できたことから、今後不斉有機触媒などへの応用が期待される。 また、これまでのジインとアルキンの分子間反応の展開として、完全分子内反応を検討した。すなわち、両末端にオルト置換アリール基を有するトリインを基質とする[2+2+2]付加環化反応を行った結果、ベンゼン環上に連続する二つの軸不斉を有する新規なキラル化合物が高い不斉収率で得られた。本化合物は、オルトジアリール二置換ベンゼン化合物の初めての不斉合成例である。 これまで三つのベンゼン環が連続するテルアリール化合物の不斉合成を行ったが、来年度は、ビアリール化合物の合成を検討する。すなわち、本反応のさらなる展開として連続反応に焦点を当て、テトラインとアルキンの分子間連続反応、あるいはヘキサインの分子内連続反応により、軸不斉ビアリール化合物の合成を行う。
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