研究概要 |
ヘキサロイシン基を有する二鎖型の両親媒性化合物を合成し,精製後のキセロゲルを油圧プレスしてフィルムを作製した。キセロゲルは脆い固体であるが,プレスすると柔軟かつ透明なフィルムになる。引っ張り強度試験機を自作して,このフィルムの引っ張り強度を測定した結果,プレスする際の圧力が高いほどフィルムの引っ張り強度は大きくなることがわかった。この結果はあらかじめ予想されたものであるが,加圧するほど強度が増大する超分子フィルムの存在を定量的に実証した初めての例であり,大変重要である。研究課題名である「有機物の鍛造」が可能であることを示すことができたといって良い。力学的な強度変化は,構成分子の会合構造の変化に対応していることも明らかになった。プレス前のキセロゲルとプレス後のフィルムについて,FT-IRスペクトルを比較した結果,メチル基の非対称C-H伸縮振動に帰属される吸収帯の一部が,加圧によって2955cm^<-1>から2985cm^<-1>まで30cm^<-1>もシフトした。この結果については,現在再現性等を含めて検討中であるが,2985cm^<-1>の吸収強度が圧力の大きさと連動して増加するならば,この吸収がロイシン側鎖が噛み合い(ロイシンファスナー)を起こしていることの分光学的証拠になると考えられ,側鎖の噛み合いのように,これまで直接的な証明が難しかった物理的相互作用を解析する上での新しい手段になる可能性も出てきた。
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