研究概要 |
銅イオン交換ゼオライト,特にMFI型(CuMFIと略記),はNOxの分解活性が極めて高いことから触媒として注目される極めて興味深い物質である.我々はCuMFI中の銅イオンの状態解析の過程で,偶然,窒素がこの物質に室温で吸着される現象を世界で初めて見いだした.通常,窒素は不活性な気体であるが,我々が見いだしたこの現象を応用すれば室温での新規な窒素吸着剤の開発も夢ではない.しかし,この吸着サイトの状態についてはほとんど明らかになっていない.そこで,この銅イオンの状態解析のために,水素吸着を通した研究を計画した.その研究過程で,再び,室温での水素の特異吸着現象およびH-D交換反応を見出した.本研究ではこの室温での水素吸着現象の吸着活性サイトの解析およびH-D交換反応の解析,加えて低温(77K付近)から室温の領域で吸着されている水素の状態解析を行うことを目的とする.これらの異なる方法で調製したCuMFI試料の窒素吸着特性を基に,ゼオライト中の水素吸着高活性な銅イオンの状態の解明を行い,より高活性な吸着能を有する試料の調製とデザインを行う. 臨界温度が33.2Kの水素が室温で,しかも1Torr程度の圧力で,吸着される現象をだれが予想できたであろうか!我々はこんな不思議な現象を見出したのです.この水素吸着活性サイトを明らかにすることは水素固定・活性化および貯蔵材料をデザインする上で極めて重要である.科学的にはいったいどのような特異なCu+が水素に対して活性なサイトとして働いているのか,その電子状態の解析には大変興味がもたれる.これらのデータを基に,水素吸着活性サイトを明らかにし,より高機能な水素吸着剤の開発をめざす.ゼオライト中の銅イオンの状態は通常では考えられないほど特徴的である.表面で起こる現象は表面を特異反応場として利用したナノサイエンスに関連しており,本研究を,表面を新物質として利用した新しい無機化学の反応・物性に関連した領域へと展開させていきたい.このように,学術的にも極めて意義深い,独創的な研究となる.また,この試料はN_2吸着活性やNO分解活性も示すことから,銅イオンのサイト解析は環境化学的観点からも極めて重要で意義深いテーマであると考える. このCuMFI試料中の1価の銅イオンは水素と室温でさえ相互作用するという特性を有する.XAFS,ESR,IR,PE,吸着熱測定などを行なうことによって,この水素吸着サイトの状態を解明した.二配位,三配位構造を有する1価銅イオンが吸着サイトとして機能することがわかった.高い水素の吸着能を有する試料の調製にも成功した.CuMFIを用いたH-D交換反応,水素添加反応などに関しての触媒作用も検討した.CuMFI試料は室温で水素分子を活性化し,B酸点として働く水素と,室温でさえ,H-D交換反応を引き起こすことを明らかにした.この事実は,白金に代わる水素添加触媒開発という観点からもきわめて興味深い.
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