生体内に広く存在する糖転移酵素1種であるβ-ガラクトース転移酵素(β-GalT)は、糖鎖生合成だけでなく、細胞表面に発現し受精など細胞間の接着に関与するレクチンとしても知られ生物学的にも医学的見地からも注目を集めている。そこで、本研究ではGalTのレクチン様作用の詳細を調べるため、人工的にGalTがクラスター化した状態をつくりだし、同じくクラスター化したNアセチルグルコサミン(GlcNAc)との結合する際の相互作用の解析を行った。相互作用は直接観察が可能な原子間力顕微鏡(AFM)を用いた。まずGalTとマルトース結合タンパク質との融合体タンパクであるMBP-GalT (Galactose transferase-fused Maltose binding protein)をマルトトリオースを介してAFMプローブに固定化した。 GalTの基質であるGlcNAcは、金薄膜上に自己組織化単分子膜(SAM)を形成させることでクラスター化させた。固定化GalTとクラスター化GlcNAc間のChemical Force測定を種々の条件で行った。MBP-GalTとGlcNAc単分子膜間には平均して95 pNの相互作用が見られた。GlcNAcの無い基板と比較した結果、40pN程度の差が観察された。プローブの形状からGlcNAcと相互作用可能なGalTは、数個程度と考えられる。このようにクラスター化したGalTとクラスター化したGlcNAc間では、相互作用が強く観測されることが分かった。本研究は糖転移酵素と基質との相互作用を直接計測した初めての例である。
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