重合性界面活性剤イタコン酸ドデシルグリセリル(DGI : n-C_<12>H_<25>OCOCH_2C(=CH_2)COOCH_2CH(OH)一CH_20H)は、少量のイオン性界面活性剤の存在下で、サブミクロンの距離を隔てた規則的な二分子膜(ラメラ液晶)を形成し、可視光の回折によって発色するという面白い現象を示す。さらにアクリルアミド(AAm)、メチレンビスアクリルアミドが共存する水溶液中で重合することによって、二分子膜構遥を維持したままアクリルアミドゲル中に固定化できる。この二分子膜固定化ゲルは、世界中で当研究室にしか存在しないユニークな材料である。このユニークなゲルを、ゲル電気泳動基材として応用するのが本研究の目的である。 上記の二分子膜固定化ゲルを基材として使用し、i)陰イオン性色素、ii)水溶性蛋白質、iii)膜蛋白質を対象サンプルとして、電気泳動による分離の検討を行った。比較として、既存の手法であるポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)による分離の実験を、どのサンプルに対しても常に行った。低分子量の色素に対しては、二分子膜固定化ゲルによる電気泳動はPAGEと類似の分離挙動を示すが、移動度がやや遅い傾向が見られた。これは、二分子膜が存在することによって、サンプルの疎水性/親水性的性質が分離に働いた結果であると考えられる。本二分子膜固定化ゲルにおいては、ゲルの網目によるふるい効果以外にも別の分離機構が働いていることになり、興味深い。 水溶性蛋白質の分離においては、二分子膜固定化ゲル中の移動度は常にPAGE中より速かった。この傾向は、固定化される二分子膜濃度が高くなる程顕著であった。この結果から、水溶性蛋白質は二分子膜中に取り込まれることなく、水相のみを移動しているのではないかと考えられる。二分子膜濃度が1.2〜1.6wt%程度で分離能が最もよくなり、2.0%を超えると分離せず、本手法として利用することは不可能であった。 膜蛋白質をサンプルとした場合には、二分子膜固定化ゲル中を蛋白質は殆ど移動出来なかった。これは、膜蛋白質が二分子膜内に強く捕捉されるためではないかと考えられる。水溶性蛋白質の分離挙動との違いに着目すれば、水溶性蛋白質と膜蛋白質を分離する、新しい分離法が提案できたのではないかと思われる。
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