等温酸滴定熱測定法を用いた新しい分子間相互作用測定方法の確立をめざして、本年度は(A)基礎データの取得と(B)方法論の開発を中心に研究を進めた。このうち、(A)に関しては、生体分子間相互作用測定の熱力学的な測定系として、ニワトリ卵白リゾチームとNアセチルグルコサミン(NAG)多量体の系(リゾチーム・阻害剤系)と高度好熱菌由来の低温ショック蛋白質(CSP)と一本鎖核酸の系(CSP・DNA系)を用いて、滴定型熱量測定(ITC)と分光学的測定(円二色性、蛍光)により分子間相互作用に関する基礎的なデータを集積した。特に、リゾチーム・NAG三量体の系では、pH4.0からpH7.0の範囲で、ITCを用いて結合定数と結合に伴うエンタルピー変化ΔHを評価した。この結果、中性に近づくにつれて酵素と阻害剤の結合比が1からずれるという複雑な振る舞いを示すことが新たにわかったが、酸性条件でほぼ理想的な1:1の結合を示し、pH4.5、30℃では、結合定数は5.6x10^4 M^<-1>ΔHは50.1kJ/molという値が得られた。この結合定数は、リゾチームの活性部位のトリプトファン残基が示す蛍光をプローブとして今回測定に成功した値5x10^4M^<-1>と良く一致することがわかった。CSP-DNA系については、大腸菌を用いたCSPの調製に成功し、蛍光測定によってDNAとの結合を確認した。また、(B)の方法論の開発では、等温酸滴定熱量測定に必要なpH滴定について、自動滴定装置(三菱化成製GT-100)およびミクロビュレット(GT-7MB)により自動測定を可能にし、これまで手動で数時間かかっていた測定を20分程度で高精度の測定ができることを確認した。
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