平成17年度に引き続き、天然およびアシル化リゾチームと阻害剤の結合系を用いて、従来法による蛋白質・リガンド間相互作用の評価を様々なpH条件で行うとともに、等温酸滴定熱量測定法(IATC)によるリゾチーム・阻害剤相互作用の測定を試みた。天然型のリゾチームの立体構造は非常に安定であるため、60℃程度まで温度を上げても、現在の装置では、完全な酸転移を観測することが困難なため、変性剤存在条件下での測定を試みた。今回は尿素を使用したが、尿素に含まれる微量な不純物が原因と思われるが、塩酸を滴下した際のpH変化が鈍くなり、pHを下げるために高濃度の酸が必要となり、また酸を滴下した後に大きな発熱が長時間にわたって観測されることがわかった。これと平行して、同じく蛋白質の立体構造転移を熱量計で測定する方法として、様々な阻害剤濃度条件下での高精度示差走査熱量計(DSC)による分子間相互作用評価を試みた。この場合には、高温まで走査することで天然型リゾチームの系でも立体構造転移を熱量計で観測することが可能である。阻害剤非存在下での熱転移に伴う熱容量曲線を元にして、各種阻害剤濃度条件下の熱容量関数を解析し、リゾチーム・阻害剤の結合に伴う熱力学量変化を評価する新しい方法論を確立することに成功した。特に、ギブス自由エネルギー変化については、従来法では測定不可能な低蛋白質濃度条件下でも正確に結合定数が評価できることを示した。エンタルピー変化や熱容量変化を評価するにはまだ至らなかったが、従来法に比べて、非常に少ない試料量で、より単純な実験条件で、蛋白質・リガンド間相互作用が熱力学的に評価できることを明確に示すことができた。
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