単細胞取り込みの基本過程であるエンドサイトーシスに適したウイルスサイズ(30-100nm)への制御を基盤とする薬物等の運搬系の開発を目標とし、以下の成果を得た。 1.セラミックコーティングによる融合抑制:カチオン性のリポソーム(脂質の2分子膜集合体)は核酸(DNAやRNA)の運搬に頻繁に利用されるが、大きな欠点は核酸との相互作用により融合(fusion)し、遺伝子運搬体としては不適な巨大な複合体を形成することである。これを避けるために表面をセラミック(シリカ)被覆で強化したリポソーム(セラソーム)を用いる遺伝子運搬を検討した。セラソームがDNA(プラスミドDNA)やsiRNAとの相互作用において融合せず、従って元のウイルスサイズ(60-70nm)を維持した優れたキャリアであるとともに、毒性も極めて軽微であることが判明した。ただし、高濃度のプラスミドDNAを用いるとセラソームの架橋が起こる。siRNAの場合はこのようなことはなく、したがって、セラソームはsiRNAの運搬体としてはin vivoへの応用が期待できるが、プラスミドDNAのin vivoへの応用には更なる工夫が必要であることが判明した。 2.糖クラスター/リン酸相互作用を利用した薬物運搬系のサイズ制御:ゾレドロネートと呼ばれるビスリン酸化合物はアポトーシスを誘起し、乳癌や骨そそう症の治療薬として使われる。アニオン性であるために単独での細胞透過性は良好ではない。このものは大環状の糖クラスター化合物と強く錯化し、10-50nmサイズの複合体を与え、許容のエンドサイトーシスにより効率よく細胞に取り込まれることを見いだした。
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