研究概要 |
骨の再生過程におけるリモデリングによる構造変化は,力学的環境の変化に対する機能的な適応現象であり,力学的な因子が重要な役割を担っている.微視的には骨を構成する各種細胞の活動の結果として捉えられ,さらには,細胞内分子システムが有する力学刺激感知機構に大きく依存している.この複雑なふるまいにおいて,細胞内分子構造,細胞活動,細胞間ネットワーク,骨の微視的構造,および巨視的な組織構造等からなる階層性が,骨の再生及び機能的適応のメカニズム解明のための一つの重要な鍵となる.本研究では,それら各階層における様々な力学現象を明らかにし,それらの相互作用から生み出される複雑系システムとしての多様なふるまいをマルチスケールメカニクスの観点から検討することを最終目的として,細胞レベルでのメカノセンサーネットワークのモデル化と巨視的な力学環境およびその構造変化の定量的関係を検討する.本年度の成果は次のように要約される. 1)力学的負荷によって骨基質が変形し,骨細管および骨小腔の内部を満たす間質液に圧力勾配が生じて骨細管内で間質液が流れる.この流れにより骨細管中に伸びた骨細胞の突起表面に作用するせん断力を骨細胞が感知することで細胞がメカノセンサーとして機能すると考えた. 2)ミクロスケールにおいて,骨細管を円管,その中心部に位置する細胞突起を円柱と仮定し,ミクロな刺激感知は,骨細管中の細胞突起上のせん断力により定義した.次に,このミクロな刺激,骨細管の表面積および本数の関数として,骨細胞が感知する力学刺激を決定した. 3)骨細胞が感知する力学情報は,細胞間ネットワークを構成する周囲の細胞に伝達されると考えた.具体的なネットワークを介しての刺激量は骨細胞間の距離の関数で定義し,距離が大きくなるほど伝達される刺激量が小さくなる重み関数を導入した.
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