研究概要 |
胸郭系における複数の部位で同時に計測した呼吸音の情報と,肺実質-胸郭系の解剖学的構造を再現した数値肺モデルに基づく音場解析を組み合わせて,肺気道内で発生する異常な気流音の音源を推定するために,本年度は,数値解析の基盤となる気道モデルの構築および呼吸音の計測システムの開発を行った.まず,マルチスライスX線CT装置を用いて,ヒト肺気道の3次元形態を再構築するアルゴリズムを開発した.本アルゴリズムはCT画像からの3次元気道領域の抽出,気道の細線化,気道世代の自動認識,世代情報を有する気道ボクセルモデルの構築,形態計測の5つの工程より構成される.本手法を用いて,ヒト全肺を撮影したCT画像を解析した結果,気管から直径1.5mm前後の細気道までの気道の分岐構造を再現することができた.これにより,数値流体解析を用いて,呼吸音を引き起こす気道内の気流解析が可能となった.また,計測できなかった末梢の気道系の形態は規則性が高いため,肺実質が占める空間を充填するような気道および肺胞の配置を探索し,気道および肺胞内の気体部分と,気道壁および肺胞隔壁の組織部分からなる肺実質の構造モデルを構築することが可能となった.次に,コンデンサマイクと波形測定器および計測制御用のコンピュータを組み合わせて,胸壁上の種々の場所での呼吸音を同時に計測できるシステムを構築した.水平面内の空間に固定した音源から発した音を二カ所の異なる位置に設置したプローブで同時計測し,音源推定を試みた.その結果,音の減衰特性は音源推定には利用できないが,二カ所のプローブで計測された音波の位相差を用いれば,肺内での音源推定に利用できるオーダーの音源推定が可能であることが確認できた.
|